およそ学生経験者で学食を利用しなかった人間、そして学食に幻滅しなかった人間はいるまい。でも当然。学食は夢の社交場でも麗しのサロンでもなんでもなくて、日々の生活がデッドラインスレスレな連中が養分の配給を受ける場であるからだ。
そんな学食において、定番として名高い一品がある。それがカレー。つーかカレー以外はいかに栄養があろうが、本当に不味いし。よって同じ値段なら物理的に満腹になれるカレーが最適だ。オレもよくカレー+コーラという死線ギリギリのメニューにお世話になる。泣くほど安いが、風立ちぬくらい寂しくなるのも事実。のでカレー以外にもお世話になっていた。
ある日、数人で学食のトレーを向かい合わせて、学食のメニューの冷たさとその展開の頭の悪さについて比較にならないくらい頭悪そうに語っていた。
「なにしろ、コメも不味けりゃ汁も不味いね」
「よっぽどフリカケ 1024 種類置いていたほうがありがてえ。ゴマシオとか」
などと。
ふと横に目をやると、知人の一人がカレーを貪っていた。スプーンの動きが目で追えないほど速い。ズズズバッと見る間にたいらげると、
「オレ、学食じゃカレー大しか食べねえし!」
すすすす、すげえ発言だ。確かに、ヤツがカレー大以外を喰っているところを見たことがない。
「なんでだよ。丼モノとかいらねえのかよ」
「いらないね! カレーで enough! 速攻喰えて安くて満腹! 一日3回は喰う!」
ああ、なんて漢なんでしょう。自分にはマネできねえし、したくない。
その日から、オレの中では「やつこそカレー王、King of Curry であろう」ということになった。しかし、そのカレー王から驚くべき発言が。
「オレは確かにカレー王かもしれん。しかし、この学校だけでもカレー大帝とカレー神がいる。オレでもやつらには勝てない」
「そ、それは気になる! ぜひカレー大帝とカレー神の正体、ならびにその理由をご教授願う!」
なんたって“King of Curry”が認める“Curry Emperor”と“Curry GOD”である。
沈黙ののち、カレー王が口を開いた。
「カレー大帝な、ヤツはオレがカレーを喰おうとすると、必ずオレより先にカレーを喰っている。位が違うんだよ。オレとは。」
…おお、それは認めざるを得まい。さらに、
「しかし、オレやカレー大帝は学食のカレーの味を甘んじて受け入れている。いわばこのカレーの奴隷、スレイブオブカレーよ。ヤツ、カレー神は違う。ヤツは誇らしげにオレに言ったね。『オレ、今日、生協のカレー会議に出てきたから』って」
にわかに興奮するオレ。
「生協カレー会議!! なんて極悪な!」
「ああ、なんでも『ルーの量が…』とか『いや、福神漬けが…』とかを全力で議論するらしいぜ。」
なるほど、文句なしにカレー神です。
さて現在、彼等も卒業してしまって、カレー化が進む新宿等に出没しているとお考えでしょう。残念ですが、彼等は新宿のカレーは食しません。学食や社食なんかのテキトーなカレーだけが彼等の理想のカレーなのです。